「んーん、私も、第四楽章目当てでチケット取ったから……でも、良かったでしょ。私、バリトンのソロが良かった」
レイはうんうん、と頷く。
やがて、透き通った声で歌い出した。
「Freude, schoener Goeterfunken,Tochter aus Elysium
Wir betreten feuertrunken,Himmlische, dein Heiligtum
Deine Zauber binden wieder,was die Mode streng geteilt,
alle Menschen werden Brueder,wo dein sanfter Fluegel weilt……」
中央通りを歩く通行人の視線が集中する。
ケーキを買って帰るサラリーマン、食事を終えたカップル、サンタの格好をしたサンドイッチマン……容姿端麗な少女二人が歩いていて、そのうち一人が美しい声で歌を口ずさむ。
ほぅ……と、感歎の声が上がった。
一番びっくりしたのは詩織である。
「レイちゃん、ドイツ語喋れるの?」
「す、少しだけ……。二期会の方みたいには歌えませんけど……。でも、本当はフランス語の方が得意なんです」
照れたように下を向く。
語学は、母親の影響で必須でした。
「フランス語……、得意なんだ」
「はい。……えと、藤崎さん?」